実験では、粒子の内部が高温のままであるにもかかわらず、回転の自由度だけを、量子力学でいう「基底状態」に近い静けさまで冷やすことができたのです。

つまり、まわりの環境を氷点下まで冷やさなくても、量子的な振るまいを引き出せることが証明されたのです。

この方法は、これまでの常識では考えにくかった新しいアプローチであり、量子物理の応用範囲を大きく広げる重要な一歩だといえるでしょう。

この成果によって、回転するような物体の量子性を、安定した、そして信頼できる条件で調べる道が開かれました。

言いかえれば、たとえ大きな粒子であっても、その一部分の性質(自由度)を選んで量子状態にすることが可能だとわかったのです。

こうした考え方は、これまでよりもずっと大きなスケールで量子現象を扱えるようになる可能性を示しています。

また、この「部分冷却」という新しい方法は、量子技術を実際に社会で役立てるためのカギにもなりそうです。

これまでは、量子効果を引き出すために大がかりな冷却装置が必要でしたが、それがいらなくなれば、装置の小型化や実験の手軽さにつながります。

これまで絶対零度に近い環境が必要だった研究が、将来は室温でもできるようになる可能性が見えてきたのです。

とはいえ、今回の実験は、あくまでも特殊な形をしたナノ粒子の「回転運動」だけに適用したものです。

すぐにすべての物体や運動にこの方法が使えるわけではなく、ほかの種類の動きや、異なる形・素材の粒子にも応用できるかどうかは、今後の研究で確かめていく必要があります。

それでも、「室温で量子純度92%」という結果は、量子の静けさを常温の世界に持ち込めることを初めて実証した、記念碑的な成果です。

かつては夢のように思われていた「熱い粒子の一部の性質だけを冷やして量子状態にする」という挑戦に、今回、明確な答えが示されたのです。

この成果をきっかけとして、量子物理の研究はさらにスケールを広げ、私たちの生活に役立つ技術としても新たな展開を迎えることでしょう。