このため、量子状態を作るには、粒子を外界からできるだけ切り離し、熱による揺らぎを抑える必要があります。
その手段として、真空中に粒子を浮かせて隔離し、さらに環境全体を絶対零度(−273.15℃)近くまで冷やす方法がよく使われてきました。
実際、比較的大きな「振動子(オシレーター)」を量子の基底状態に近づけるには、極低温冷却に加えて、レーザーやフィードバック制御などの高度な技術を組み合わせる必要があります。
そうした努力の結果として、極低温では非常に高い純度が得られていましたが、今回の室温実験はそれらを上回る純度に到達しました。
(※ここでいう「純度」は、基底状態にいる確率とは少し異なる、量子状態の混ざり具合を示す指標です。)
一方で、室温のままでこれを実現するのは非常に困難であり、これまでの記録では、粒子を光で浮かせて制御する「レヴィテーション系」で純度47%(n ≈ 0.6)、粒子を固定する「クランプ系」で純度34%が限界でした。
つまり、「常温で量子の静けさを引き出す」という挑戦は、長らく夢物語のように考えられてきたのです。
そんな中、今回の研究チームは画期的な方法を選びました。
それは、粒子全体を冷やすのではなく、特定の性質(たとえば回転などの自由度)だけにエネルギーを集中して抜き取るという戦略です。
粒子の他の部分は熱いままでも、その一部分だけを冷却すれば量子的な性質を引き出せると考えました。
実際の実験では、粒子の「回転運動」の揺れだけを狙って静め、量子的状態(基底状態)にすることを目指しました。
巨視的物体の性質のみを量子状態にする
今回の研究では、直径およそ120ナノメートルのシリカ(ガラス)ナノ粒子が使われました。
この粒子は非常に小さいものの、多数の原子が集まった“かたまり”であり、量子実験の対象としては大きめの存在です。
しかも完全な球ではなく、わずかに楕円形で向きに偏りがある「異方的」な形状を持っています。