群れで狩りをするシャチは、クジラのヒレをつかんでひっくり返し、押さえ込んで仕留める狩りを得意とします。

万事休す。
あわれこのクジラも凄絶な最期をむかえるのかと思いきや、調査隊は思いもよらぬ光景を目にしました。
なんとシャチはクジラに接近すると、尾ビレの下に潜り込んで、絡んだロープに触れるような行動を見せたのです。
さらにその後、群れのリーダーであるメスのシャチがやって来て、ザトウクジラに対し波を立て始めました。
するとクジラの尾ビレからロープがするっと抜けたのです。
しかも驚くことに、シャチたちはロープの取れたクジラに手を出さず、静かにその場をあとにしました。
当のクジラはしばらくの間、船の近くを周遊し、姿を消したといいます。

シャチは意図的にクジラを助けたのか
慈善団体・クジラとイルカの保護協会(WDC)の海洋生物学者であるエーリッヒ・ホイト(Erich Hoyt)氏は「シャチがザトウクジラを攻撃しなかった理由は不明だ」と話します。
同海域ではシャチがハクジラを捕食するシーンが度々報告されていますが、ザトウクジラは”季節はずれの食べ物”だった可能性もあります。
また、単にシャチがお腹いっぱいだったか、やせ衰えたクジラを狩っても、大した栄養にはならないと判断したのかもしれません。
あるいは、寄生虫だらけのクジラを避けた可能性も考えられます。
それでも調査隊にとって、シャチたちの行動はほとんど利他的なものに見えたという。
しかしやはり、今回のケースは極めて稀で、ほとんどの場合、クジラはシャチの餌食になります。