人数の多いクラスで席替えを先生が一人ずつ誘導すると時間がかかるのと同じです。

一度にまとめて動かそうとする試みもありましたが、計算が遅くなったり途中で原子が抜け落ちたりしやすいという課題がありました。

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Credit:AI-Enabled Parallel Assembly of Thousands of Defect-Free Neutral Atom Arrays

つまり「大規模に速く、しかも欠陥ゼロで並べる」という三つの条件を同時に満たすのが難しかったのです。

本研究は発想を「直列」から「並列」に切り替えます。

イメージとしては、全員が同時に一歩ずつ進んで所定の席に近づく方式です。

研究チームは、光のパターンを賢く設計して原子全体を同時に誘導することで、かかる時間を原子数にほぼ依らない水準に抑えることを目指しました。

その結果として、短時間で大きな原子配列を欠陥ゼロに近い状態へ整える「基盤技術」を確立することがこの研究の目的です。

この技術が実現すれば、量子コンピュータに必要な大量の高品質量子ビットを素早く用意でき、量子誤り訂正などの実装にも弾みがつきます。

また、配列の形を柔軟に変えられるため、量子シミュレーションなど他の応用にも広く役立ちます。

数千個の原子を同時に操る技術とは?

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FIG1は、この研究の原子並べ替えシステム全体の流れを図で示したものです。まず最初に、平面上にたくさんの「光のトラップ」を作り、そこに原子がランダムに入り込む状態を用意します。次に、AIを使って「どの原子をどこに移動させれば理想の配列になるか」という最適なルートを計算します。このとき、全部の原子をまとめて少しずつ動かすという方法をとっているのが大きなポイントです。実際には移動ルートを20個くらいの小さなステップに分割し、その都度AIがホログラム(光の設計図)を作成します。これを光の装置(SLM)にリアルタイムで表示しながら、すべての原子を一斉に目的地へ誘導していきます。最後には、欠陥のないきれいな原子配列が完成します。Credit:AI-Enabled Parallel Assembly of Thousands of Defect-Free Neutral Atom Arrays