(※なお今回の記事では「トップダウン負荷がない状態」という部分を日本語でわかりやすく「何もしない」と表現しましたが、より厳密には「脳が意識的に課題処理をしない状態」と言えるでしょう。)
さらに、参加者の気分(ムード)の変化も調べられました。
しかし、どの条件でも歩く前と後で気分の変化に大きな違いはありませんでした。
つまり、集中力の回復は「気分がよくなったから」ではなく、環境や作業内容の違いそのものによるものだったのです。
自然の中で何もしない時間は最高のご褒美

「自然の中で何もしない時間」が脳の集中力を劇的に回復させる――この結果は、私たちの生活スタイルに大きな示唆を与えます。
まず第一に、「何もしない」は決してサボりではなく、脳にとって必要なメンテナンス時間だということです。
忙しい現代社会では、ぼーっとしている人を「怠けている」と見がちですが、脳科学的にはむしろ推奨される行動かもしれません。
今回の研究では、たった10分の“ぼんやりタイム”でも効果があることが示されました。
小さな休憩時間でも、公園を散歩したり、窓から空を眺めたりするだけで、脳のパフォーマンスがリセットされる可能性があります。
さらに、この恩恵は本物の自然に行けない場合でも受けられる点にも注目です。
研究チームは、常に本物の自然が近くにあるとは限らないが、だからといってシミュレーション環境の効果を軽視すべきではないとしています。
実験では大型スクリーンに映した仮想森林を使いましたが、映像や写真などの疑似的な自然体験でも脳を休ませる可能性があります。
授業や仕事の合間に、短い「自然映像休憩」を取り入れるだけでも集中力が回復するかもしれません。
今回の結果は、大学キャンパスや職場、都市設計においても応用できる可能性があります。
緑地や自然映像を流すスペースを増やす、講義の途中に短い自然休憩を入れる、オフィスで自然映像を流すなど、日常の中で自然に触れる工夫が生産性やストレス軽減に役立つかもしれません。