インドと米国の関税交渉は、2025年8月1日の期限までに合意に至らず決裂した。
問題の核心は、インドが求めた「追加関税を課さない保証」と「クローバック条項」を含む合意文書を巡る対立である。

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インドと米国の関税交渉は、2025年8月1日の期限までに合意に至らず決裂した。
問題の核心は、インドが求めた「追加関税を課さない保証」と「クローバック条項」を含む合意文書を巡る対立である。
保証とは、合意後にトランプ大統領がインド製品へ追加関税を課さない約束を指す。クローバック条項とは、一方が関税引き上げや合意破棄を行った場合、他方が譲歩を撤回できる“安全装置”を意味する。
インドのクローバック条項要求とその背景
インドがこうした詳細の合意文書を求めた理由は、主力産業であり、労働集約型の繊維や皮革などの産業が、関税の急変動に極めて脆弱だからである。
これらの産業は、関税の急変動が輸出計画を狂わせ、国内経済に深刻な打撃を与える。インドは、法的拘束力のある合意文書によって、トランプ政権の関税裁量を封じ、安定した貿易環境を確保しようとした。
トランプ政権の関税裁量とインドの警戒
また、インドは交渉当初から合意文書を求めたのは、トランプ政権の交渉手法を熟知していたからでもある。
第一次トランプ政権時から、中国との合意直後にも「不公平関税」や「国家安全保障」を口実に頻繁な関税変動があったことを注視していた。
トランプ大統領の予見不能な関税変動を可能にする背後には、米国の一連の法律がある。
国際緊急経済権限法(IEEPA)をはじめ、国家非常事態法、1962年通商拡大法232条、1974年通商法604条・301条などだ。。
特にIEEPAは、国家非常事態宣言下で一律の「相互関税」を相手国にかけられる柔軟な操作可能性を担保している。