さらに、この技術は音楽以外の分野にも応用が期待されています。

たとえば、リズムに合わせて正確に動く能力は、スポーツやダンス、リハビリテーション、または工場のライン作業など、タイミングが重要な多くの場面で役立つ可能性があります。

研究チームは今後、ロボットに即興演奏やスタイルの切り替えといった、固定された譜面を超える創造的な力を学ばせることも計画しています。

つまり、その場その場の音や仲間の演奏に合わせてリズムを変える、「音楽のノリを感じて動く力」をロボットに身につけさせたいというのです。

また、論文では演奏精度に影響する要因についても詳しく分析されています。

特に「使用するドラムの数(空間的な複雑さ)」や「打点の時間間隔の不規則さ(nPVI)」が大きい曲では、ロボットの成績(F1スコア)がやや低くなることが確認されました。

これは、叩く場所やタイミングの切り替えが激しいほど難しくなるためです。

一方で、テンポの速さやドラムの使い分けの多さ(エントロピー)は、それほど成績に影響しないこともわかりました。

こうした知見は、今後さらに賢く、柔軟に演奏できるロボットを開発していくうえで、貴重なヒントとなります。

人型ロボットが自分の力でドラム演奏を学び、しかも人間のような演奏の工夫まで身につけたという事実は、かつては夢物語のように思われていました。

しかし今、AIの進歩によってその夢は現実になりつつあります。

近い未来、ステージの上で、情熱的なビートを叩き出すロボットを観客が拍手で迎える――そんな光景が当たり前になる日が訪れるかもしれません。

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元論文

Robot Drummer: Learning Rhythmic Skills for Humanoid Drumming
https://doi.org/10.48550/arXiv.2507.11498

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。