トランプ氏はプーチン氏との会談が困難であることを認める一方、交渉では「領土交換」が話し合われる見通しを示唆している。トランプ氏は「我々は実際に何かを取り戻し、何かを交換したいと考えている。これは複雑で、容易なことではない」と説明するが、同氏が言及している領土がどの領土かは不明だ。
ウクライナはロシア西部クルスク地方のごく一部しか実効支配していない。一方、ロシアはウクライナ領土の約5分の1を実効支配している。モスクワは、ウクライナに対し、2014年に併合したクリミア半島や、ロシアが部分的にしか実効支配していないルハンスク、ドネツィク、ザポリージャ、ヘルソンの各州からの撤退を繰り返し要求している。
それに対し、ゼレンスキー氏は9日、ウクライナ抜きでの決定に反対を表明し、トランプ大統領が提案した「領土交換」は選択肢ではないと明言している。同大統領は「ウクライナの領土問題に対する答えはウクライナ憲法に定められている。誰もそこから逸脱することはできない」と主張している。
すなわち、ロシアとウクライナ両国の主張は数か月前から変わらない。そのような中で、トランプ氏の「領土交換」案が成果をもたらすとは思えないわけだ。
米ロ首脳会談を控え、英国、ドイツ、フランスなど西側諸国の政府代表団は9日、英国ロンドンで会合を開いた。英国のデービッド・ラミー外相と米国のJ・D・ヴァンス副大統領が主催した同会合では、トランプ大統領のウクライナ政策について、米国と西側諸国との意見の調整が主要目的だったという。スターマー英首相官邸によると、「プーチン大統領に対し、違法な戦争を終わらせるよう圧力をかけ続ける必要があること、領土交換は相互的でなければならず、確固とした安全保障の保証がなければならないことで一致した」という。
トランプ大統領は第2期政権開始直後はモスクワに接近し、ウクライナには距離を置いてきたが、ロシア軍のウクライナへの軍事攻勢が激化し、多数の死傷者が出てきたことを受け、プーチン大統領への批判を強め、モスクワに対してウクライナ戦争終結の最後通牒(8月8日まで)を突きつけたばかりだが、ここにきて米ロ首脳会談の開催を優先し、対ロ制裁の強化はトランプ氏の口から出なくなってきた。