そして核分裂では、この1つ1つのドミノが倒れる瞬間に、驚くほどのエネルギーがに放出されるのです。

核爆発の瞬間に放出される放射線や熱は非常に強烈であり、これに晒されると生物組織や物質は即座にダメージを受けることが知られています。

しかし、物体や人間の身体は、ある程度、これらの放射線や熱を吸収または遮蔽する能力があります。

このため、人間が直接放射線や熱の進行を遮る場所にいると、その背後の物質は放射線や熱の直撃を受けにくくなります。

一方、人間による遮蔽がなかった場所では核爆発の放射線や熱に直接さらされ、塗装剤などの化合物が熱分解による「漂白効果」を受けることになります。

つまり「人の影」となった部分は核爆発の放射線や熱からある程度守られた部分であり、影の色は当時の塗装などの色を残した場所であると言えます。

実際、2000年に奈良国立文化財研究所によって行われた調査では、影の部分は炭化した人間が染みついたものではなく、塗装剤のような付着物であったことが示されました。

核爆弾の熱では人体が全て蒸発することはない

「人の影」にまつわるもう1つの問題は「人間の蒸発」です。

現在になっても多くの人々が「人の影」を残した人々は、原子爆弾の強烈な熱線によって一瞬で蒸発してしまったと考えています。

同様の認識は日本だけでなく、海外の人々も「原爆の閃光とともに人間が影と煙だけを残して蒸発してしまう」というイメージを持っているようです。

原爆の熱によりバスの表面が溶けて黒い煙になっています
原爆の熱によりバスの表面が溶けて黒い煙になっています / Credit:LAWRENCE LIVERMORE NATIONAL LABORATORY . Nuclear Weapon Effects on Vehicles

確かに核実験の様子を記録したビデオでは、バスの塗料が溶けて一瞬で黒い煙になる様子が映っています。

また核戦争を描いた映像作品などでも、人間が一瞬で蒸発してしまう様子が描かれることが何度かありました(※「ヒロシマ:BBC第二次世界大戦の歴史」など)