広島と長崎で1945年8月6日と9日に爆発した原爆の影響については、数々の逸話が残っていますが、その中でも有名なのが街の石段などに残された、人の姿が焼け付いたような影の跡です。

この影は「人影の石」や「死の人影」と呼ばれています。

また40代以降の方々のなかには平和教育を通して、原爆の激しい熱によって「体が一瞬で蒸発してしまい影だけが張り付いてしまった」といった表現を記憶している方もいるでしょう。

広島市が作成した原爆にかんする資料にも「爆心地の半径500m以内の地域では人々は蒸発的即死」と記載されています。

広島と長崎に点在する人影の石が原爆の悲劇を伝える貴重な資料であることは間違いありません。

しかし人間が一瞬で蒸発したり、背後の石に炭化した人間の残骸が張り付いたと考えるのは、物理学的には正しい解釈ではありません。

では、これらの影はどうして生まれたのでしょうか?

目次

  • 原爆はなぜ石の上に「人の影」を残したのか?
  • 核爆弾の熱では人体が全て蒸発することはない

原爆はなぜ石の上に「人の影」を残したのか?

広島および長崎の原爆投下で残った人の影
広島および長崎の原爆投下で残った人の影 / Credit:松重美人,松本栄一,米軍撮影,Wikipedia

核爆発の熱線を浴びた物体や人々の影が、歩道や建物の表面に残されているという事実は、多くの人々にとって衝撃的であり、広島と長崎に起きた悲劇を今に伝える歴史的資料となっています。

ただこの現象がどのようにして起こったのかを理解するためには、核爆発の時に放出される強烈な光や熱、そしてその影響を受けた物質の化学的変化を考慮に入れる必要があります。

原子爆弾は核分裂によって発生するエネルギーを兵器化したものです。

また爆発のエネルギーが非常に大きくなるのは、連鎖的な核反応が起こっているからです。

ドミノの一つ一つを同位体ウラン235やプルトニウム239のような重原子の核とみなすと、あるドミノ(原子核)を指でつつく(中性子で衝突させる)と、それが倒れて隣のドミノに当たり、その次のドミノもまた倒れて…という連鎖的な反応が始まるのです。