バチカンではフランシスコ教皇の教皇職の正当性に疑問を投じる聖職者がいる。その背景には、11世紀の預言者、聖マラキが「全ての教皇に関する大司教聖マラキの預言」の中で1143年に即位したローマ教皇ケレスティヌス2世以降の112人(扱いによっては111人)の教皇を預言し、最後の111番目の教皇が生前退位したベネディクト16世だったからだ。その結果、「べネディクト16世は最後の教皇だ。後継者のフランシスコ教皇はローマカトリック教会の正当な教皇ではない」と考えるからだ。べネディクト16世はそのような憶測を書簡の中で否定している。
ちなみに、マラキは1094年、現北アイルランド生まれのカトリック教会聖職者。1148年11月2日死去した後列聖され、聖マラキと呼ばれている。彼は預言能力があり、ケレスティヌス2世以降に即位するローマ法王を預言した。その預言内容をまとめた著書「全ての法王に関する大司教聖マラキの預言」と呼ばれる預言書が1590年に登場した。カトリック教会では同預言書を「偽書」と批判する学者が少なくないが、その預言内容がかなり当たっていることも事実だ。
べネディクト16世の生前退位問題を理解するうえで看過できない点は、同16世が生前退位を決意したのは「2012年9月末」だったということだ。約8年間の教皇在位期間、そして生前退位後から死去までの約10年間、秘書としてベネディクト16世に仕えてきたゲオルグ・ゲンスヴァイン大司教はメディアとのインタビューの中で、「ベネディクト16世は2012年9月末に生前退位を決意していた」と証言しているのだ(「前教皇「2012年9月末に退位決意」2023年1月11日参考)。独民間ニュース専門局ntvが2023年1月3日、同インタビューを放送した。
ゲンスヴァイン大司教は「ベネディクト16世がいつ頃、生前退位を決意したのか」との質問に対し、「2012年9月末だった。それを聞いて自分は驚き、『教皇、(ローマ教皇の生前退位は)不可能です。全く不可能なことです』と強調した。そして『教皇としての職務が負担ならば軽減するなど調整しなければならないし、それは可能です』と伝え、ベネディクト16世を説得した」という。それに対し、ベネディクト16世は、「(生前退位の決定は)議論するべき問題ではない」と述べ、生前退位の決意を覆す考えがないことを強調したというのだ。