「ウクライナは勝たなければならない」「ロシアは負けなければならない」というスローガンは、「欧米諸国がロシアに勝てば、欧米諸国の覇権体制が続き、欧米諸国はロシアと中国を抑止できる」という、かなり抽象的なイメージ論によって成り立っていた。その後、トランプ大統領の登場によって、アメリカが「ウクライナは勝たなければならない」「ロシアは負けなければならない」主義から抜けてしまった。そのため、日本と欧州諸国だけでロシアに勝利し、それを通じて中国も抑止する、といった話になった。
私は「ウクライナは勝たなければならない」言説に、一貫して批判的である。達成困難な目標を設定し、「これを達成すればついでにアジアも平和になる(達成できなければアジアは平和にならない)」とその場限りの主張をしてしまったら、やがてどんどん自らの首を絞めるように苦しくなっていくことが必至だからだ。(拙編著『The Impacts of the Russo-Ukrainian War: Theoretical and Practical Explorations of Policy Agendas for Peace in Ukraine』でも、私は「均衡」を重視した欧州の安全保障の姿を模索すべきことを書いている。)
どうやってGDP260%の債務を抱えた日本が、欧州ファースト路線で、ユーラシア大陸の反対側の隅に位置する衰退諸国との連携などを基盤にして、あとは精神論だけで、北東アジアの安定を達成していくことなどができるのか。