人事施策としての「価値観マネジメント」へ

「価値観でつながる採用」は幻想か、突破口か…Z世代と企業の新しいマッチング論の画像1
(画像=ベースミーCEO・勝見仁泰氏)

 前段の勝見氏への取材に戻ろう。

 取材の中でふと疑問に思ったのは、BaseMe導入している企業から、ユーザーには有名大学の学生が多い点を利点として挙げる声があったこと。

 ともすれば、BaseMeは本質から外れ、人事担当者がコストを削減して見栄えのする学生を獲得するツールとなりかねない。また、学生側も価値観マッチングの特性を理解して企業に受けるような自分を演出することも可能ではないのだろうか。

「BaseMeは正解を出すものではなく、対話のきっかけを生む装置なんです。設問の数も多く、表層的な演出で意図通りのスコアを出すのは実際には難しい。仮にズレが出た場合でも、それを面接で問い直すことで、逆に深いコミュニケーションにつながることもある」

 さらに、勝見氏は「似た価値観の人を集めればうまくいく」という誤解にも釘を刺す。

「価値観が近いからこそうまくいく、とは限らない。違和感こそが、対話や発見を生む出発点になると考えている」

 価値観マッチングを支えるのは、採用の効率化ではなく、あくまで「人を理解する」ための問いの連鎖。その姿勢こそが、ツールの運用次第で組織文化を深化させるか、硬直させるかを分ける現場において、BaseMeの存在意義となっている。

 勝見氏は、今後の採用環境の変化についてもこう語る。

「これからは新卒一括採用が崩れ、通年採用が当たり前になる。学生と企業が、よい偶然として出会う場面をいかに創出できるかが問われます。そのとき、価値観という軸でのマッチングは、テクノロジーを通じてごく自然に行われるようになっていくでしょう」

 通年採用時代においては、従来の「選考期間」という区切りがなくなり、学生との接点は年間を通じて発生する。そうした環境下では、企業側の意識や運用姿勢こそが問われる。「人を理解し、対話を促す」という基本姿勢を忘れず、価値観マッチングの本質を正しく活用できるかどうか。それが、変化する採用市場の中で企業が選ばれる理由にもなっていくはずだ。

 人を理解する問いを投げかける装置としてのBaseMeは、単なる効率化ツールではなく、採用の現場における新しい接点と可能性を広げる実験場であり続けるだろう。

(構成=昼間たかし/ルポライター、著作家)