「価値観マッチング」は本当に機能するのか…実証例

●フリー株式会社

 価値観マッチングは実際の採用現場でどう機能するのか。まず、話を聞いたのはフリー株式会社。

 同社の担当者は「これまで選考時の評価と、入社後の成果のギャップは一定発生していた」と話す。

「優秀な学生だと思っても、得意なこととか好きな領域では能力を発揮する一方で、本当に苦手なことや困難に直面した時に本当に頑張れるのかといった、本質的な部分をESや面接だけで判断するのは、困難ではないかと感じていた」

 とりわけ同社が直面していたのは、企業イメージと実態の乖離だ。

「弊社に対して学生は、ホワイト企業でキラキラしたイメージを抱いている。しかし実際には、まだまだカオスな部分が多い。そのため入社後に挫折してしまうケースもあった」

 それを乗り越える人材を獲得する方法としてESは不十分だった。

「たとえば、ESで『最も高い壁に向かってやりきった経験を教えてください』という設問を設けたことがある。しかし、やり切ったレベルがどれだけの難易度だったのか、その学生がどういう思いを持って挫折を乗り越えたのかといった部分は、文字からはなかなか伝わりにくいという課題が残った」

 さらに、近年のAI文章生成能力の向上により、学生がそれらを利用した場合、本来の思考や価値観が見えづらいという問題も生じていた。

 こうした問題の解決にBaseMeは有効に機能している。価値観のマッチングにより、一人採用するのに必要な母集団の質は劇的に向上した。結果として、採用コストの大幅削減も実現している。

 将来的にはAIによる面接も検討する同社だが、現状ではまだ踏み切れない部分もある。

「採用ペルソナが本当に整合性を保てているかは、まだ検証し切れていない。そのため現状、AIによる足切りは行っていない」

 何よりも、マッチング精度を向上させるには、採用側の要件をどれだけ言語化できるかが課題となる。結局のところ、価値観マッチングの成否は企業側の自己理解の深さに依存するといえるだろう。

●株式会社丸井グループ

 一方、丸井グループは「企業イメージと実態の乖離」という異なる課題に、価値観マッチングで取り組んでいる。

 同社担当者はこう語る。

「当社の場合、小売業のイメージが先行しがちだが、実際のビジネスの中心はフィンテックや共創投資など、かなり多様である。学生側ではそうした実態に触れる機会が少なく、入社後のギャップが課題になることもあった」

 同社が求めているのは、従来の一括選考では出会えなかった人材との接点だ。

「『こんな社会課題を解決したい』『こういう働き方が理想』といった抽象的な話題で会話できると、学生の価値観がよく見えるし、こちらの価値観も伝えやすくなる。学生の話を起点に双方向の会話ができることで、従来のESでは見えてこなかった側面を掘り下げられる」

 企業側が「どういう人と働きたいか」を丁寧に言語化することが前提だが、同社が目指すのは価値観マッチングを起点とした早期接触による新しい選考スタイルへの転換だ。

「BaseMeの価値は、最初に『こういう人かも』という仮説が立てられることにある。そこから対話を重ねる中で理解を深めていける。早く出会えて、早く関係を作れるという意味で効果を感じている」

 つまり、BaseMeはあくまで最初の出会いの補助線だ。そこから先は、人と人との対話や関係構築といった泥臭いプロセスを重ねていく。価値観マッチングとは、万能なふるいではなく、時間を投資するに足る相手と出会うための起点にすぎない。

 その利点と限界を理解した上で、どう活用するかが成否を分ける。