一方で、皮膚に多い“β型”は細胞のDNAに入り込まず、皮膚の常在菌のように「常在ウイルス」としておとなしく共存していると考えられてきました。
そのため従来の定説でも、皮膚に入るβ型はせいぜい紫外線によるDNA損傷を手助けする「共犯者」に過ぎず、自らががんを維持するエンジンになることはないと考えられていたのです。
しかし現実には、免疫力が低下した人々で皮膚がんが多発する現象が知られています。
例えば、臓器移植後に免疫抑制剤を服用している患者や、先天的な免疫不全症の患者では、皮膚に多数のイボや有棘細胞がんが繰り返し発生することがあります。
ヒトパピローマウイルスはこうした背景で増殖し、紫外線によるがん発生を手助けしているのではないかとも指摘されてきました。
それでも、「ヒトパピローマウイルス自体が皮膚がんの主因となっている」と断言できる直接的な証拠はありませんでした。
そこで米国NIH(国立衛生研究所)の研究チームは、ある特異な女性患者のケースを詳細に調べ、この謎に挑むことにしました。
この女性には遺伝性の免疫異常(ZAP70関連)があり、過去にクリプトコックス髄膜炎などの重い感染症を経験していました。
また口の中や手足に次々とイボ(疣贅〔ゆうぜい;イボ状の良性腫瘍〕)ができ、日光に当たる部分の皮膚には43箇所もの皮膚がん(扁平上皮がん)が発生していたのです。
通常、皮膚がんは手術で取り除けば治ることが多いのですが、この患者さんの場合は違いました。
顔にできた大きな皮膚がんは切除と移植を繰り返しても再発を重ね、最新の免疫療法(チェックポイント阻害剤)すら効果がなく、手に負えない状態だったのです。
彼女の身に何が起きていたのでしょうか?
無害なウイルスが、皮膚がんを暴走させる仕組み

なぜ女性患者は皮膚がんの再発を繰り返していたのか?