【コラム】ヒトパピローマウイルスとは何か?
ヒトパピローマウイルス(HPV)という名前を聞いたことがあっても、その正体を詳しく知っている人は案外少ないかもしれません。ヒトパピローマウイルスは“パピローマ”、つまり「いぼ」を意味するラテン語から名付けられたウイルスの仲間で、人類と何万年も共に暮らしてきた“超・古株”のウイルスです。驚くべきことに、ヒトの皮膚や粘膜には100種類を超える多様なヒトパピローマウイルスが生息しており、ほとんどの人が一生のうちに一度は何らかの型に感染します。実は、身近な「手足のいぼ」も、その多くがヒトパピローマウイルスによって引き起こされているのです。動物にも“パピローマウイルス”が存在し、ウサギや牛でも“いぼ”や“できもの”の原因となることが知られています。実際、ウサギの耳にできる大きな突起の正体もヒトパピローマウイルスの一種によるものです。一方で、人類が科学の力でこのウイルスの姿を初めて“直視”したのは意外と最近のことで、1970年代になってようやく電子顕微鏡で観察されました。その美しい幾何学的な形から「ウイルスの宝石」と呼ぶ研究者もいます。さらに、21世紀に入り、HPVが子宮頸がんを引き起こすことが判明すると、「がんの原因となるウイルス」という科学史上の大発見として大きな注目を集めました。しかしその全貌は、いまだに謎も多く、ウイルス学や医学の分野で今なお“最前線の研究対象”となっています。
実は、ヒトパピローマウイルスは皮膚にも存在することが以前から知られていましたが、長らく「皮膚がんを直接的に維持する力はない」と考えられてきました。
これは、ヒトパピローマウイルスには100種類以上の型があり、その性質が大きく異なるためです。
たとえば、子宮のような粘膜に感染する“α型”は、感染した細胞のDNAに自分の遺伝子を組み込み、がんを直接引き起こすことが知られています。