程よい「ひんやり感」はどのように脳に伝わっていたの?

謎を解明するため研究チームはまず、マウスを使って皮膚から脳へ「冷たい」という感覚がどのように伝わるのかを詳しく調べました。

近年のイメージング技術や遺伝工学の進歩は凄まじく、特定の刺激が皮膚から脳へどのように伝わっていくかを可視化することが可能になっています。

実験では、最新のイメージング技術や遺伝子工学を用いて、どの神経細胞がどのように信号をやり取りしているかを一つずつ可視化しました。

するとまず、皮膚には約15〜25℃程度の涼しい温度に反応する分子センサー(イオンチャネル)が存在し、センサーが刺激されると感覚神経が興奮して信号を脊髄に送っていることがわかりました。

次に、脊髄の「後角」という部分で、冷たさの信号はTrhr⁺ニューロンという特殊な神経細胞に受け取られます。

このTrhr⁺ニューロンは、無害な冷たさにだけ強く反応し、氷のような強い冷たさや暖かさにはほとんど反応しません。

研究チームは、遺伝子操作と薬剤を使って、試しにTrhr⁺ニューロンだけを脊髄から除去したマウスを作りました。

このマウスに温度刺激を与えて調べたところ、Trhr⁺ニューロンがないマウスは15〜25℃の涼しさを感じることができなくなりました。

一方で、0℃近い強い冷たさや熱い刺激、触覚にはふつうに反応しました。

つまり、Trhr⁺ニューロンという「増幅装置」が壊れると、「心地よい冷え」だけを脳に伝えられなくなるのです。

この結果から、脊髄の中に涼しさだけを増幅して伝える仕組みがあることが分かりました。

さらに研究者たちは、Trhr⁺ニューロンがどこへ信号を送っているかも明らかにしました。

調査の結果、Trhr⁺ニューロンはCalcrl⁺ニューロンという別の神経細胞に信号を渡しており、このCalcrl⁺ニューロンは脊髄から外側橋被核(lPBN)という脳の領域へ情報を送り出します。