暗号資産とグローバル移住の可能性

 暗号資産を活用した移住制度は、国によってルールや認可の仕組みが異なるものの、先述の通り現実に導入されるケースが増えている。その背景にあるのは、暗号資産ならではの特徴、つまり「世界中どこへでもすぐに移動できる資産」であるという性質だ。

 これまでの資産は、現金や不動産のように管理や移動が複雑であったが、暗号資産はインターネットさえあれば国境を越えて送金可能。しかも、手数料はほとんど発生せず、送金スピードも圧倒的である。この柔軟さが、資産と居住権との関係に新しい可能性をもたらしているのである。また、国によっては暗号資産で得た利益に対する税制が、自国より低く設定されている場合もあり、このことも移住の決め手となるだろう。こうした理由を背景に、暗号資産を活用した移住は、複数の国に生活拠点を持ちたい富裕層やスタートアップ創業者にとって、さらに有力な選択肢となっていくはずだ。

 ただし、この度のTONをめぐるケースのように、実際には存在しない制度がSNSによって急速に広まることは、今後も発生し得るかもしれない。そのため、制度の正当性や認可状況については、各国の公式機関の情報を必ず確認することが重要だ。

今後の制度整備の行方

 デジタル資産が、各国のビザ制度や居住権制度と結びついていく動きは、今後さらに広がっていくだろう。 特に、外国人による自国への投資や、資本流入を促進したい国々にとって、暗号資産を評価する仕組みづくりは重要な政策手段の1つとなるはずである。

 そして、この実現のためには制度の透明性を高め、ルールを明確にすることが不可欠となる。 そうした基盤が整えば、暗号資産を活用したビザや居住権の取得が、より多くの国で実現していくと考えられる。

 一方で、暗号資産への期待が過剰になり、投資家の一部には、根拠の薄いプロジェクトに過信してしまうケースもあり得るだろう。 今回、暗号資産取引所バイナンスの前CEOであるCZ氏がすぐに「UAE当局からの発表がないことは疑わしい」ことを指摘していたが、まさしく的を得ていたことになる。そのため投資家は、制度の仕組みやリスクをきちんと理解した上で行動する、より一層のリテラシーが求められる。

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