UAEのゴールデンビザ制度とは

 UAEのゴールデンビザ制度は、2019年に導入された長期滞在許可制度である。 主に、高度な専門性を持つ人材や、一定規模の投資を行う外国人に対して、最長10年間の居住資格を与えるもので、不動産投資やスタートアップ設立、医師や研究者といった特定の職業従事者が対象となる。

 そして、ゴールデンビザを獲得すれば最大10年間の滞在が可能となり、この期間は就労や就学もできるようになる。 したがって、このゴールデンビザの導入以降、UAEは中東地域で最も多くの外国人を受け入れる国の1つとなり、スタートアップや富裕層の移住先として注目を集めている。

 暗号資産関連企業も、ドバイを中心に事業拠点を構えるケースが増えており、制度の柔軟性と税制上の優遇措置がその背景にある。一方で、現在の制度では暗号資産の保有や取引のみを根拠としてゴールデンビザを取得することは認められておらず、今回のTON報道が誤解を招いた理由もここにあると言える。

他国に見る、暗号資産による長期滞在許可制度の実例

 UAEでのTONステーキングによるゴールデンビザ取得は否定されて一方で、暗号資産による移住や市民権取得の制度は、他国では実際に存在している。

 たとえば、世界で初めてビットコインを法定通貨として採用したエルサルバドルでは、採用当初より、外国人に対して市民権を与える法案の可決を目指していた。そして2023年に、「Freedom Visa」プログラムを導入。これは、ビットコインもしくはUSDTで少なくとも100万ドル以上を寄付することで、年間最大1,000人に市民権を与えるという制度である。

 また、カリブ海のアンティグア・バーブーダでは、従来からある市民権取得プログラム(CBI)において、公式代理店を通じてビットコインなどでの支払いが事実上認められている。一定額の国家基金への寄付や不動産投資によって市民権が与えられる仕組みで、暗号資産による送金は支払い手段の1つとして機能している。

 さらに、欧州の一部の国でも、暗号資産を資金源とした不動産投資や起業によって、ゴールデンビザの対象となるケースが報告されている。たとえばポルトガルでは、ポルトガルの資産運用会社Fundboxと、暗号資産投資プラットフォームであるKvarn Xが提携し、ポルトガルのゴールデンビザ獲得の可能性を提供するためのファンドを設立を公表している。

 このように、暗号資産への投資を通じて居住権を得るための仕組みは、世界的には確かに広がっているのである。