利益は“社員旅行”に?水田クレジットがもたらす副次効果

Green Carbon社では当初、クレジットで得た利益は農薬や重機の購入に使われると想定していました。ところが実際には、社員旅行など、従業員への還元に使うケースが目立ったといいます。

また、吉見氏は「最初は多くの米農家が“リスク”と捉える中干しの延長に対しても、実際の導入後はポジティブな意見が寄せられることも多い」と話します。水はけのやや悪い土壌にもかかわらず、周囲の農家と同じ日数で中干しをしていた場合、水田クレジット創出のための中干しの延長が、結果的に稲の生育促進につながるケースがあったためです。

一方、現時点で「環境への貢献」を導入理由に挙げる農家は少なく、いかに環境価値を“実感”できるかも、今後の普及には重要なポイントです。

“環境にやさしいお米”が、米の価値を高める

Green Carbon社は、さらなる展開として「環境配慮米」のブランド化にも取り組んでいます。 これは、水田クレジットを通じて環境負荷を抑えながら収穫した米に、新たな価値をつけて販売するというもの。水田クレジットの導入と同時に、米単価の上昇に寄与できるのです。 実際、大手チェーンやコンビニでも、環境に配慮した食材を求める動きが強まっており、出口が明確な販売ルートは農家にとっても大きな魅力です。

また昨年夏には、キッチンカー企業と協業し、『お台場冒険王』で、おにぎりの販売量に比例してどれだけのCO2が削減できたか? をコンテンツ化して見せるなどの取り組みを行いました。これは、消費者にも環境配慮への意識を促すと同時に、環境配慮米のブランド化と消費が、米農家の収益や事業継続につながっていることを認識してもらう取り組みです。

環境配慮米の販売は、2024年には4,000トン・20億円規模が見込まれており、今後さらなる広がりが期待されます。

実際のお台場冒険王での出展の様子(2024年)
(画像=実際のお台場冒険王での出展の様子(2024年))

カーボンクレジットを軸に、農業課題を多角的に解決する

Green Carbon社の取り組みは、水田クレジットや環境配慮米にとどまりません。たとえば、収穫量を減らす「倒伏」(※)を防ぐ薬剤や、除草剤の使用量を減らす技術など、農業支援のソリューションも展開しています。 国内には現在、約136万ヘクタールの水田があり、すべてに水田クレジット導入が行われると、その規模は約140億円。Green Carbonはその30〜40%のシェアを目指しつつ、酪農や森林クレジットにも領域を広げつつあります。

その中核にあるのは、「一次産業に関わる方々が幸せになる取り組みかどうか」。そのためには、「カーボンクレジット導入の拡大もさることながら、一次産業におけるサポートのスキーム化が大切」と、吉見氏は語ります。たとえば、従業員が不足している米農家に対して人材を派遣できる仕組みや、新規就農希望者と担い手の不在に悩む米農家とのマッチングなど、課題に対する最適なスキームづくりを進めています。

水田クレジットをはじめ、販売や人材など多角的にアプローチすることで、米農家の「作物単価の上昇」「収益の増加」「支出の減少」というポイントに具体的なメリットをもたらすことが可能になるでしょう。

※ 倒伏:米や麦など穀物の茎が地面近くで曲がること。収穫が困難になり、収穫量に大きく影響する。