求愛してきたオスを獲物とみなして共食いしてしまうことも少なくありません。

そのため、オスはメスに接近する際に脚を使って振動を送り、メスの機嫌を慎重にうかがいながら近づきます。

交尾(タランチュラの場合は交接という)が受け入れられると、オスはメスを持ち上げるような姿勢を取り、生殖孔に触肢を挿入して精子を注入します。

この際、いかに素早く、正確に、そしてメスに刺激を与えずに行うかが命運を分けます。

交尾後、即座に逃げなければ捕食されてしまうため、オスにとって“生殖”とは“脱出スピード”も問われる試練なのです。

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新種のタランチュラを発見。Satyrex speciosusのオス。 / Credit:Pavel Just_EurekAlert

そして今回の研究では、こうした命がけの交尾を行うタランチュラの中でも、特にユニークな形質を持つ個体群が中東とアフリカの乾燥地帯で発見されました。

これらは新たな「Satyrex」属として認定され、既知の種も再分類されることになりました。

結果としてSatyrex属に含まれるのは、既知種の1種(Satyrex longimanus)と、新たに発見された4種(S. ferox、S. arabicus、S. somalicus、S. speciosus)です。

すべてのオス個体に共通するのが、「極端に長い触肢」という特徴でした。

では、この長い触肢にはどんな役割があるのでしょうか。

新種のタランチュラたちは長い触肢でメスと交接し、メスの攻撃から身を守っていた

Satyrex属に属するタランチュラのオスたちは、現在知られているタランチュラの中で、最も長い「触肢」を持っています。

その長さは、体の前面にあたる“背甲”の2.2〜3.8倍です。

例えば最大種のSatyrex feroxは、脚を広げた直径が約14センチあり、その触肢は5センチ近くに達します。

そして、これらは“遠距離交尾”のための器具として役立ちます。