にもかかわらず、これまでの脳オルガノイドモデルでは複数の脳領域をまとめて再現し、なおかつ本格的な血管ネットワークを備えた例はありませんでした。

脳全体の発達や疾患を理解するには、複数の領域が相互作用するモデルがどうしても必要です。

そこで研究チームは、「複数の脳領域を一つにまとめ、さらに血管も備えたミニ脳」を作り出すことで、より人間の脳に近いモデルを実現しようとしました。

目的は、ヒト胎児の脳発達を丸ごと再現することで、発達障害や脳疾患の原因解明や治療法開発に役立つプラットフォームを作ることでした。

生身の人間の胎児脳を直接実験素材にすることはできませんが、試験管内に「もう一つの人間の脳」を育てることができれば、疑似的な脳実験が可能になります。

大脳・中脳・後脳の間で協調的な信号が飛び交っている

大脳・中脳・後脳の間で機能的な信号が飛び交っている
大脳・中脳・後脳の間で機能的な信号が飛び交っている / まず、ヒトのiPS細胞(いろいろな細胞に変化できる万能細胞)から、3種類の“脳のパーツ”を育てます。一つは「大脳」に成長する細胞のかたまり、もう一つは「中脳・後脳」に成長する細胞のかたまり、そしてもう一つが血管になる細胞のかたまりです。それぞれのパーツは専用の培養液や刺激を与えられ、別々に発達させられます。そして一定の時期が来たら、これら3つの“ミニパーツ”を一つの場所に集め、特別な接着剤のような物質(マトリゲル)でくっつけて一体化させます。こうして完成したのが「多領域脳オルガノイド(MRBO)」、つまり脳の複数領域を再現したミニチュアの脳です。下側のパネルは多領域脳オルガノイドを作るためのタイムライン、つまり各パーツをどんな順番で・どれくらいの期間育てて、どのタイミングで合体させるのかを示しています。/Credit:Multi-Region Brain Organoids Integrating Cerebral, Mid-Hindbrain, and Endothelial Systems