ではコストの部分をクリーンな核融合発電で作られるエネルギーで大幅にカットすることはできるでしょうか?

残念ながらそれも簡単ではありません。

核融合炉は膨大な開発コストがかかり、商業的に採算をとるハードルが非常に高いのです。

そこでMarathon Fusion社の研究チームは発想を転換し、核融合炉で発生する余剰の高エネルギー中性子を使って付加価値の高い「金」を副産物として製造できれば、発電と錬金の一石二鳥で経済性を飛躍的に高められるのではないかと考えました。

言い換えれば、核融合炉をエネルギー生産装置としてだけでなく、同時に貴金属を大量に生産する工場としても活用し、古の錬金術を現代科学の力で現実化するということです。

果たしてそのようなことは可能なのでしょうか?

そして可能だとして採算は得られるのでしょうか?

水銀が金になる仕組み

水銀が金になる仕組み
水銀が金になる仕組み / Credit:Canva

核融合発電を利用した錬金は採算がとれるのか?

答えを得るため研究者たちはまず、理論的な仕組みを構築しました。

最初の準備は、まず金の原料として「水銀198」を用意します。

水銀198は天然水銀中に約10%存在することが知られており、安くはありませんがかなりの量を確保できます。

次に核融合炉を起動させ、2つの水素の仲間が合体して「ヘリウム原子」と「中性子」になる反応を起こし膨大な熱を発生させます。

電気を作る主役はこのときに生じる熱で、この熱を使って水などを沸かしタービンを回すことで発電が行われます。

一方、核融合が起きた後の中性子は物凄い速さで飛び去っていきます。

そのため高エネルギー中性子はある意味で副産物と言えます。

次のステップは、この高エネルギー中性子を水銀198に照射します。

するとビリヤードの玉突き事故のように原子核から中性子を2個はじき飛ばします。

この反応は「(n, 2n)反応」と呼ばれ、1つの中性子が水銀198の原子核に衝突すると、原子核から2つの中性子が飛び出し、原子核は結果的に中性子を1つ失って水銀197へとダイエットします。