とはいえ、今回の実験にはいくつかの課題も残されています。
たとえば、今回の測定では、「4つの光子すべてが同時に検出された」という特定の条件に合致するデータだけを使って分析が行われました。
このように、あとから条件を絞ってデータを選び出すことを「ポストセレクション(事後選別)」といいます。
これは量子光学の分野でよく使われる手法ですが、一部の科学者たちは「この方法では、実際よりも強い相関があるように見えてしまう可能性がある」と指摘しています。
また彼らは「たとえ光子同士には直接のもつれがなかったとしても、それらを生み出した“場”のレベルで、まだ見えていないもつれが存在しているのかもしれない」と述べています。
つまり、「見えない糸」は断ち切られたように見えても、もっと深いところではなおつながっている可能性がある、というわけです。
研究チームも、こうした指摘を真摯に受け止めています。
今後は、より多くの光子を効率よく発生させることで、事後選別を必要としない方式への改良を進めていく計画です。
もしこれが実現すれば、今回の実験結果の確実性がさらに高まると期待されています。
さらに研究者たちは、「この新しい“つながり”の仕組みを理解することが、量子の本質に迫る鍵になる」と話しています。
こうした理解が進めば、将来的には量子コンピュータや量子通信といった先端技術にも新たなインスピレーションを与えるかもしれません。
なによりも今回の実験が私たちに教えてくれたのは、「量子の世界には、まだまだ私たちの知らないことがたくさんある」という事実です。
これまで“当たり前”だと思われていた仕組みが、わずかな工夫でくつがえされるかもしれない——
そんなワクワクするような気づきを、今回の研究は私たちにもたらしてくれました。
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元論文
Violation of Bell inequality with unentangled photons
https://doi.org/10.1126/sciadv.adr1794