ただし、すべての動物が人間に慣れるわけではありません。
研究では「人間との接触が多い個体ほど、公園閉鎖時に行動を大きく変える傾向がある」と報告されていますが、それは「慣れ」によるものだけではありません。
逆に「人間を脅威と認識しすぎている個体」は、閉鎖中でも警戒を解かなかったのです。
このように「人間は危険かもしれないが、うまく使えば役に立つかもしれない」という複雑なリスク・リターンの天秤を、動物たちは日々の行動の中で取っているようです。
この研究は、私たち人間が“いない”ことが、どれほど動物の世界に影響を与えているかを科学的に可視化した貴重な成果です。
そして動物たちが単に人間を怖がっているだけでなく、場所ごと、個体ごとに「学び」「判断」していることが明らかになりました。
国立公園は観光地であると同時に、動物たちの貴重な生息地です。
人と自然の共存を目指すなら、「どこを人間が使い、どこを動物に残すか」というゾーニングの工夫が、これからますます求められていくでしょう。
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参考文献
Wildlife show wide range of responses to human presence in U.S. national parks
https://science.ubc.ca/news/2025-07/wildlife-show-wide-range-responses-human-presence-us-national-parks
元論文
The influence of human presence and footprint on animal space use in US national parks
https://doi.org/10.1098/rspb.2025.1013
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。