クラウドから防衛へ:民間技術の応用力
アラヤシキの根幹にあるのは、「データの統合と、そこから得られるインサイトの継続的な改善」だ。大量のログやセンサーデータをリアルタイムで処理し、脅威の兆候を抽出、即時対応につなげる仕組みは、クラウドセキュリティの技術と多くの共通点を持つ。
「私たちは防衛領域と民間領域の両方にプロダクトを展開していますが、根本の考え方は変わりません。クラウド上の異常検知も、災害時の被害予測も、必要なのは“変化する状況への即応”です」
従来、防衛産業は先端技術の導入に慎重な分野だった。しかし近年はドローンやAIといった民生技術のスピード感が勝り、防衛側が民間から技術を取り入れる動きが加速している。
「かつては軍事技術が民間に転用されていましたが、いまは逆。民間で育ったテクノロジーをいかに素早く防衛に生かすかが鍵になります。海外でも同様で、私たちだけが慎重でいるわけにはいかない」
リスクを乗り越える“ハイブリッドな組織”とは
有事と平時のリスクは性質こそ異なるが、組織としての対応には共通点がある──。粟津氏はこの視点を、事業の中核に据えている。
「有事は“命のリスク”、平時は“経済のリスク”。でも、どちらも“備え”がなければ対応できない。リスクの種類に関係なく、同じ方法論で対処できる組織を作るべきです」
例えば、コロナ禍ではリモートワーク環境の有無が企業の適応力を左右した。これも「平時に整備していたか否か」の差である。防衛分野でも、突発的な事態に対する備えと柔軟性が問われており、技術的・組織的な“ハイブリッド”が鍵になるという。
社会波及性を重視したエコシステムづくり
スカイゲートテクノロジズが主導する「DEFENSE TECH DAY」は、国内の防衛課題をオープンにし、スタートアップや大学、他企業との共創を促すイベントだ。そこには「防衛投資を社会全体に波及させたい」という強い意図がある。
「米国では、軍の投資が社会インフラに転用される仕組みがあります。クラウド技術や衛星通信の進化も、その一環です。防衛領域の技術やサービスが、より社会の安全を支えるものとなっていく。そんな想像力をもっと働かせて良いと思います」
同社は、防衛専用品(いわゆる軍事兵器)の開発は行っていない。その代わり、災害救助やインフラ監視、セキュリティ分野にも応用可能な「波及性ある技術」の開発に注力している。実際、民間クラウド領域で培った技術は、防衛向け製品にも活用されており、「オープンイノベーションの好循環」を生み出している。