もちろん、こうした“先まわりの免疫反応”が、実際にウイルスの感染を防いだり、症状を軽くしたりするのに本当に役立つのかどうかは、まだはっきりとはわかっていません。

たとえば、新型コロナウイルスのような病気では、体にウイルスが入ってから実際に免疫が本格的に動き出すまで、数日かかることもあります。

今回の研究で見つかったような、病気の人を見ただけで免疫細胞が反応するしくみが、実際に感染を防げるかどうかは、これからの研究にゆだねられています。

けれども、この発見には、未来に向けての大きな可能性もあります。

もし「病気の人を目にするだけで体が準備を始める」のであれば、それをうまく活用して、ワクチンの効果をもっと高められるかもしれません。

たとえばワクチンを打つときに、同時にVRを使って病気の人の姿や症状を見せれば、免疫細胞が「敵が来るかも」と先に構えることができ、体の中でワクチンへの反応がより強くなる可能性があるのです。

研究チームもそのような使い方を提案しています。

また、VRのような技術を使えば、実際に病気に感染するリスクなしに「感染に近い体験」をつくることができます。

これは、脳と免疫がどう関わっているかを調べる新しい研究方法としても役に立ちそうです。

病気のサインを見たときに、私たちの心だけでなく、体の奥深くでも小さな“防衛チーム”が動き出している。

そんな私たちの体のすごさに、あらためて驚かされる研究結果でした。

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元論文

Neural anticipation of virtual infection triggers an immune response
https://doi.org/10.1038/s41593-025-02008-y

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。