それはユダヤ民族だけではなく、パレスチナ人にもいえることだ。ユダヤ民族もパレスチナ民族も相手側に‘実存的な脅威‘を感じている限り、外交が成果をもたらすことは容易ではない。「イスラエルを地図上から抹殺する」というアハマディネジャド大統領の発言はそのことを端的に証明している。中途半端ではなく、敵を抹殺するまで戦わなければならないのだ。イスラエル軍もハマスを撲滅するまで戦闘を中断できないのだ。すなわち、実存的な脅威から解放されるまでだ。
イスラム神学者ムハナド・コルチデ氏は、著書「ユダヤ教なくしてイスラムなし」の中で、多くのイスラム教徒に蔓延する反ユダヤ主義的態度について論じている。
コルチデ氏によると、若いイスラム教徒たちが過激な反ユダヤ主義に走るのは、宗教文書への深い研究やイスラムの教えの学習から生じたものではなく、イスラム教徒のアイデンティティを形成する感情的にコード化された解釈パターンに起因するというのだ。その背景には、帰属意識を醸成し、分離を正当化することを目的とする壮大な物語があるという。物語は、敵のイメージを構築する。そして「敵」は通常、単なる「政治的反対者」や「宗教的反対者」ではなく、その撲滅が不可欠な実存的な脅威として描かれている」と分析する。
イスラム教徒とユダヤ教徒の間には永続的な対立があると信じている人が多いが、同氏はクルアーン(コーラン)においてその証拠を引用する様々な解釈の伝統について詳細に検証する。そして、クルアーンのメッセージにはユダヤ教の物語に登場する人物、神学的概念、そして制度的慣行が浸透していることを指摘する。そして反ユダヤ主義が「イスラム教に根ざしている」か、それとも「イスラム社会に持ち込まれ、その後宗教的に正当化されたものか」について再考する。同氏によると、多くの反ユダヤ主義的態度は個人的な経験に基づくものではなく、しばしば無反省に伝えられてきた物語(神話)に基づいているというのだ。