実験の結果、片側の話者の声だけ聞こえる電話の会話は、両者の声が聞こえる会話と比べて、注意力と記憶課題のパフォーマンスを有意に低下させたことが分かりました。
どうやら私たちは会話の意味や流れを無意識に予測しようとする傾向があり、片方の話者の声が聞こえるような状況では、相手側の発言が聞こえず文脈が不明瞭なため、会話の予測により多くの注意資源や認知的努力を割き、他の課題(記憶や注意)に集中できなくなるのです。
一方で、音は必ずしも「集中を阻害する邪魔者」ではありません。
ホワイトノイズや自然の音(焚き火の音や鳥のさえずり、雨音など)、さらにはカフェの環境音といった特定の音は、かえって集中力を高め、作業効率を向上させる効果があるという研究も存在します。
これらの音は、周囲の気になる雑音を打ち消したり、適度な刺激となって脳を覚醒させたりすることで、作業に没頭しやすい環境を作り出すと考えられています。
近年、日常的に耳にするあの音が意外にも注意を奪い、集中力を下げていたことが明らかになりました。
それは咳や鼻をすするなどの病気を連想させる音です。
ニューヨーク州立大学オネオンタ校のキャリー・フィッツジェラルド氏 (Carey Fitzgerald) らの研究チームは、周囲の咳や鼻をすする音が認知活動にどのような影響を与えているのかを調べました。
フィッツジェラルド氏は数年前の冬場での講義でテストを実施した際に、学生が咳やくしゃみ、鼻をすする音の出所を目で追っている様子から着想を得て、この仮説を検証することにしたのです。
病気を連想させる音は注意を奪う

実験では、大学の心理学入門コースを受講している学部生を、異なる環境音が聞こえる3つのグループに分け、統計学に関するビデオ講義を視聴させています。
1つ目のグループは無音の状態で、2つ目のグループは鍵の音や書類をめくる音などがする状態で、そして最後のグループは咳や鼻をすする音がする状態でビデオを視聴してもらいました。