BRICSの魅力は、もはや「新興国クラブ」ではなく、「新たな大国クラブ」としての求心力を持っている点にある。かつてのように欧米の老舗大国が中心ではなく、急成長を遂げる非欧米諸国が、国際政治の中心に浮上しつつある。

モディ首相インスタグラムより

脱ドル化と国際金融秩序への挑戦

BRICSの戦略の中でも重要な柱が「脱ドル化」である。アメリカが持つ基軸通貨ドルの地位は、国際金融制裁の強力な武器ともなってきた。しかし、ロシアや中国、インドは、相互貿易の中でドルを使わない決済体制を拡大し、独自の金融ネットワークを築こうとしている。

この動きは、アメリカによる一方的な制裁に対抗する実利的な対応であり、単なる反米感情ではなく、国際経済における権力構造そのものに挑戦する試みである。脱ドル化は、まさに「多極化する世界」における通貨戦略の一環として位置づけられる。

地政学理論で読み解く構造転換

本書の特徴は、こうした国際構造の変化を、地政学理論の観点から読み解いている点にある。著者は「英米系」と「大陸系」という二つの地政学的世界観を軸に、現代の国際秩序を分析する。

「英米系」は、海洋国家を中心に普遍主義とグローバル化を推進してきた理論であり、アメリカはこの系譜に属していた。これに対し、「大陸系」は、文明圏や地域の独自性を重視し、多極的な構造を前提とする思想である。BRICS諸国はこの「大陸系」地政学の立場にあり、そしてトランプ政権のアメリカもまた、結果的にこの構造に近い政策を採るようになった。

冷戦後から多極化へ:不可逆的な変化

本書が示す最大のポイントは、「多極化」は一時的な現象ではなく、構造的で不可逆的な変化であるということだ。冷戦期のような明確な二極対立ではなく、複数の強国が相互に干渉し、時に競合しながら勢力を拡大する。しかも、そこにはかつてのようなイデオロギー的な明確な境界線は存在しない。