すなわち、メルツ首相はパレスチナ人への人道支援と国家承認を明確に分けて対応しているわけだ。フランスや英国はパレスチナの国家承認の意向を表明し、イスラエルへの武器輸出の禁止を叫び出している。その中で、ドイツは国是としてイスラエルの安全に対して義務を有する一方、ガザ地区のパレスチナ人に非人道的な状況の早急な改善をイスラエル側に要請。パレスチナの国家承認問題では「まだ時期尚早」という立場をキープしているわけだ。

ヴァ―デフール独外相は先月31日、2日間の日程でイスラエルを訪問。エルサレムではネタニヤフ首相やサール外相らと会談し、「飢饉による大量死を回避するため、人道支援と医療支援が迅速かつ安全に、そして十分に到着できるようにする義務がある。さもなければ、イスラエルは国際的に孤立してしまう」と警告する一方、「国家承認の前に紛争間の交渉をまず始めなければならない。それも可能な限り早くだ。そのためにガザ地区の戦争の即停止が不可欠だ」と指摘し、「私はイスラエル側がドイツ政府の考えを正し理解したと信じる」と述べている。ちなみに、サール外相は「ドイツは西側諸国で唯一、物事を合理的に判断できる国だ」と評している。

なお、ヴァ―デフール外相は1日、イスラエル訪問を継続し、パレスチナ自治政府があるヨルダン川西岸地区でアッバース大統領と会談する。会談では、ヨルダン川西岸におけるイスラエル人入植者によるパレスチナ人への暴力の激化や、イスラエルによる同地域の併合検討などについて協議される見込みだ。イスラエル国会(クネセト)は最近、併合を支持する決議を可決し、国際的な批判を浴びたばかりだ。

いずれにしても、ガザ戦争を契機に、ドイツの中東外交は、これまでの無条件なイスラエル支持から、イスラエルの国家保全への支援と連帯をキープしながら、イスラエル軍の過剰な軍事行動には注文をつける、といった幅のある外交に転換しだした。ドイツの中東外交の進展を注視したい。

2024年イスラエルを訪れたメルツ首相