現在のパレスチナが上記の国家の条件、国連の加盟国への条件を満たしているとは到底言えない。国民を統治する政府が存在するだろうか。パレスチナ自治政府は存在するが、久しく腐敗、汚職問題が指摘され、その行政能力はほぼ皆無だ。一方、ガザ地区ではこれまで「ハマス」が実質的統治してきたのだ(国連は2012年11月、パレスチナ自治政府に「非加盟オブザーバー国家」としての参加資格を認めている)。

ところで、米国を除くと、欧州ではドイツは依然、パレスチナの国家承認を表明していない数少ない国だ。それゆえにというか、欧州諸国からはドイツにパレスチナの国家を承認すべきだという圧力が日増しに強まっている。ドイツ国内でもメルツ政権にフランスや英国に倣ってパレスチナ人に連帯すべきだという声が聞かれる。

このコラム欄でも報告したが、ドイツではイスラエルに対して無条件で支援するという国家理念(Staatsrason)があって、それがドイツの国是となってきた。その背景には、ドイツ・ナチス軍が第2次世界大戦中、600万人以上のユダヤ人を大量殺害した戦争犯罪に対して、その償いという意味もあって戦後、経済的、軍事的、外交的に一貫としてイスラエルを支援、援助してきた経緯がある。メルケル元首相は2008年、イスラエル議会(クネセット)で演説し、「イスラエルの存在と安全はドイツの国是(Staatsrason)だ。ホロコーストの教訓はイスラエルの安全を保障することを意味する」と語っている。メルケル氏の‘国是‘発言がその後、ドイツの政治家の間で定着していった。

メルツ首相は5月26日、ベルリンで開催されたドイツ公共放送「西部ドイツ放送」(WDR)主催の「ヨーロッパフォーラム」で、イスラエル軍のガザでの行動について、「ガザの民間人の苦しみはもはやハマスのテロとの戦いによって正当化されることはない」と強調し「イスラエル政府は最良の友人でさえも受け入れることができなくなるようなことをしてはならない」と、イスラエルのガザ戦闘を厳しく批判した。そのメルツ首相もパレスチナの国家承認に対しては依然、消極的だ。