さらに興味深いのは、目覚めた直後(成虫化6日目)に休眠群のほうがむしろ生物学的年齢が高く出る(分子年齢が2.8日ほど高い)にもかかわらず、その後の老化進行が非常に遅く、最終的には対照群よりも分子年齢が若い状態になっていたという点です。

この現象は、休眠中にもわずかな老化は進んでいたものの、その期間に老化のスピードを再設定するような分子レベルのリプログラミング(再構成)が起こったことを示唆しています。

そして研究チームは、老化速度の変化が哺乳類にも共通する代謝系と関連していることを発見しました。

つまり、この小さなハチの老化抑制メカニズムは、人間の生物学的老化にも応用できる可能性があるのです。

画像
キョウソヤドリコバチは人間の老化を遅らせるヒントを与えたかもしれない / Credit:Canva

もちろん、今回の研究は基礎生物学的な段階であり、すぐに人間に応用できるわけではありません。

しかし、老化という普遍的な課題に対し、自然界のメカニズムからヒントを得られることを示した意義は大きいといえます。

研究者らは今後、「DNAメチル化領域の編集による老化制御」「哺乳類でも同様の生物学的年齢の再構成が可能かを調べる研究」「人間の出生前・乳幼児期の環境が老化に与える影響の解明といった応用研究」を計画しています。

この研究は、「老化は止められない」というこれまでの思い込みを根本から覆すものです。

わずか数ミリの昆虫が、私たち人類の「老化の針をゆっくり動かす」ための大きなヒントを与えてくれました。

全ての画像を見る

参考文献

This animal has a trick to extend its life by a third – and we could harness it
https://newatlas.com/aging/anti-aging-power-wasp/

Wasps may hold the secret to slowing down the ageing process
https://le.ac.uk/news/2025/july/wasp-aging-leicester-biological