人間の寿命をさらに伸ばすことは可能でしょうか。

もしかしたらその秘密は、ある小さなハチが握っているかもしれません。

イギリスのレスター大学(University of Leicester)が中心となって行った研究により、キョウソヤドリコバチ(学名:Nasonia vitripennis)という寄生性の小型ハチの驚くべき能力が明らかになりました。

このハチは幼虫期に成長を一時停止(休眠)することで、その後の成虫としての寿命を劇的に延ばし、老化のスピードを遅らせるのです。

この研究は、2025年7月28日付の『Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)』に掲載されました。

目次

  • 幼虫期に休眠したハチは老化が遅くなり寿命が36%伸びる

老化を遅らせることは可能か?小さな蜂に秘められた能力を検証

老化の研究において、近年注目を集めているのが「生物学的年齢」という概念です。

カレンダー上の年齢(暦年齢)とは異なり、生物学的年齢は体内の分子や細胞の状態をもとに算出される「実際の老化度合い」を示すものです。

近年ではDNAメチル化の変化を測定することでこのバイオエイジを推定する「エピジェネティック・クロック(分子老化時計)」が発展しています。

ところが、多くの昆虫はDNAメチル化をほとんど持たず、こうした分析が困難でした。

画像
キョウソヤドリコバチ / Credit:Wikipedia Commons

そんな中で登場したのがキョウソヤドリコバチ(学名:Nasonia vitripennis)です。

このハチは、体長2〜2.5mmほどの小さな寄生蜂で、ハエの蛹に卵を産みつけ、幼虫が体内から宿主を食べるという生態を持っています。

小さくても研究者にとっては極めて有用な生物です。

というのも、キョウソヤドリコバチは、哺乳類と同様のDNAメチル化システムを備えた数少ない昆虫だからです。