しかし、それを実行するには、前述のような脳やホルモン、社会的環境を乗り越える必要があります。

たとえば、報酬系が過敏に働いている人にとって、「食べること」は単なる栄養補給ではなく、ストレス解消であり、生きがいです。

それを単に「減らしなさい」と言うことは、心の逃げ道を奪うことでもあります。

さらに、このようなアドバイスは、“自己責任”という物語を強化します。

肥満の人々には、「努力不足」「自制心がない」といった視線が向けられがちですが、こうした誤解が差別や孤立を生んでいます。

実際に調査では、肥満者の70%以上が職場や医療現場で何らかのスティグマ(偏見・差別・レッテル)を経験していると報告されています。

このスティグマは、子どもたちにまで及び、いじめや自尊心の低下、うつを引き起こすこともあります。

実際、肥満の子どもは社会的な排除に遭いやすく、医療機関でさえも偏見に満ちた対応がされることがあります。

では、どうすればいいのでしょうか?

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痩せやすい社会をつくる「4つの方向性」とは? / Credit:Canva

現在、専門家たちは以下の4つの方向性を提唱しています。

1つ目は、肥満を病気として認めることです。

糖尿病や高血圧と同じく、慢性的で再発性の病気として長期支援が必要です。

2つ目は、スティグマの撲滅。

医療・教育現場での偏見や差別を減らし、共感と理解に基づいた言葉遣いを心がける必要があります。

3つ目は、個別支援の強化です。

文化背景、心理状態、生活環境に応じた多面的な治療を提供するべきです。

4つ目として、社会環境の改善も必要です。

新鮮な食品へのアクセス、公共交通や公園の整備、健康的なライフスタイルを支えるインフラの拡充が求められます。

たとえば、学校で健康的な給食を提供する政策や、公共のジムを無料開放する施策、低所得者への食料補助制度などは、実際に行動変容を促す効果があります。