その背景には、複雑で多層的な要因が存在します。
まず、生物学的な側面としては、遺伝子やホルモンバランスの影響が大きく関与します。
たとえば、満腹を感じさせるホルモン「レプチン」の働きが鈍っていたり、脳の報酬系(快感を感じる部位)が過敏に反応したりすることで、普通の人よりも食欲を抑えることが難しいのかもしれません。
さらに、心理的要因も見逃せません。
うつ病や不安障害、過去のトラウマなどが過食につながることは、科学的にも明らかにされています。

そして、もっとも見落とされがちなのが社会環境の影響です。
都市部では、栄養価の低い高カロリーな食品(超加工食品)がどこにでも売られ、しかも安価です。
歩く代わりに車で移動し、仕事も余暇もスクリーンの前で過ごすライフスタイルが当たり前になっています。
このような「肥満を促進する環境」は、特に貧困地域に顕著です。
生鮮食品が手に入りにくい「フードデザート」と呼ばれる地域では、選択肢そのものが極端に限られています。
たとえば、近くのスーパーに並ぶのは冷凍ピザやスナック菓子ばかりです。
そんな環境で「もっと野菜を食べなさい」と言われても、実行は困難です。
つまり、肥満は「頑張れば防げる」ような単純な話ではなく、人間の脳、体、社会の構造が引き起こす総合的な現象だといえるでしょう。
では、そのような影響がある中で、肥満の人が痩せるようどのようにサポートできるでしょうか。
「ダイエットしろ」と言う代わりに行うべきこと

なぜ、従来の「もっと食事を減らし、もっと運動しなさい」というアドバイスがうまくいかないのでしょうか?
理由はシンプルです。それは現実を無視した“幻想”だからです。
たしかに、理論上は「摂取カロリー < 消費カロリー」であれば体重は減るはずです。