そこで研究チームは、2017年から2019年にかけて、103頭のザトウクジラを対象に、ドローンによる空中撮影を実施しました。

撮影地点は、南極の採餌地(ウェスタン南極半島)と、コロンビアの繁殖地(トリブガ湾)。

それぞれの地点で撮影したクジラの体長・体幅を測定し、そこから体積・脂肪量・体脂肪率を3Dモデリングにより推定しました。

また、同時に過去の実験データや脂肪組織の密度、オキアミのカロリーなどを用いて、どれほどのエネルギーが消費されたのか、どれほどのオキアミが必要だったのかを算出しています。

その結果、ザトウクジラが驚異的なダイエッターであることが分かりました。

ザトウクジラは約2カ月の断食&移動で体脂肪が36%減少する

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移動前と移動後のザトウクジラの比較。体脂肪が激減している / Credit:Griffith University

分析の結果、ザトウクジラは3月~5月にかけて最も太り、8月~12月にかけて最も痩せていました。

そして6~8週間の移動中に、体脂肪が平均して36%低下していることが明らかになりました。

この変化により消費された体脂肪量は体積12立方メートル、重さにして約11トンに相当すると推定されます。

なんと、これはアフリカゾウ2頭分、あるいはシティバス1台分の重量と同じです。

さらにエネルギー換算すると、約1億9600万キロジュール

これは、成人1人が62年間に摂取するカロリー量に匹敵します。

そしてその燃料源となるのが、南極オキアミ 約57トン分でした。

この量はエアバスA320旅客機の離陸時重量を超える量に相当すると研究チームは説明しています。

人間に例えるなら、体重90kgの人が、2ヶ月で30kgの脂肪を臓器障害などの健康被害なしに失うという、常識外れの減量です。

そしてクジラたちは、この大減量を経て、無事に出産や育児を終えることができます。

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ザトウクジラの移動を支えるのは大量のオキアミ / Credit:Canva