これは、乾燥した空気が皮膚から熱を奪うどころか、高温の風が皮膚に直接当たり、体表面からの放熱を妨げるためと考えられます。

皮膚の湿らせは、この環境下でも一定の快適さを提供しましたが、体温を下げる効果は確認されませんでした。

また、汗の分泌が抑えられることで、脱水リスクの軽減にはつながる可能性が示唆されています。

この研究の最大の意義は、扇風機が「いつでも安全・有効な冷却手段ではない」ことを明確に示した点にあります。

特に高齢者や心臓病患者がいる環境では、心血管系への負担が増す可能性があるため、気温や湿度を考慮せずに扇風機を使用することは、むしろ命を危険にさらすリスクとなります。

実際、これまでの研究では、熱波発生時に気温が上昇することで、心臓に関連した死亡リスクが3倍になることが示されています。

さらに、研究では「扇風機の涼しさ」はあくまで体感的なものであり、内部の体温上昇を防ぎきれない場合があることが示されました。

つまり、涼しいと感じていても、実際には熱中症に近づいている可能性があるのです。

対策としては、冷房が使えない場合でも、皮膚を濡らす、水分をこまめに摂る、地域の「クーリングシェルター(冷房避難所)」を利用するなど、複数の手段を組み合わせて暑さに備えることが推奨されます。

異常な暑さが発生する現代だからこそ、「扇風機さえあれば大丈夫」という思い込みを捨て、科学的な知見に基づいた暑熱対策が求められているのです。

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参考文献

Fans can do more harm than good in a heat wave
https://newatlas.com/aging/fans-temperature-heatwave/

When is it too hot to use a fan?
https://www.scimex.org/newsfeed/when-is-it-too-hot-to-use-a-fan