魚類学者の中坊徹次さんは『日本の動物はどこからきたのか』(京都大学総合博物館編、岩波書店)という本の中で、これは黒潮の影響ではないかと考察しています。

黒潮は夏~秋にかけて南方の魚を関東近海まで運んだり(運ばれる魚を「死滅回遊魚」という)、三陸沖で親潮とぶつかることで豊かな漁場を形成していたりします。

しかし、この黒潮も水温や塩分を含む特有の<水の壁>を作っており、この壁がメジナの分布域を制限しているのではないかというのです。

同じ南方系で、黒潮の影響下であっても、このような水の見えない壁は存在しているということになります。地球の約7割を占める海ですが、魚たちがその広大な海を全て泳ぎ回れるわけではないのです。

急速に壊れつつある海の壁

そんな海の壁が急速に壊れつつあると言います。近年よく聞く温暖化や気候変動の影響は様々ですが、それにより海の特性も急速に変わっています。

筆者が学生時代によく訪れていた北の海の魚たちは、突然数が減り始めたと聞きました。変わって、本来あまり見られなかった南方寄りの魚が見られ始めたというのです。

南方系の魚が急増中

関東近海でも、南方よりの魚が以前より急速に増えており、またその一部は越冬までしています。千葉方面の海ではサンゴの一種であるミドリイシの仲間が年々増加しているとも聞きます。

磯遊びをしているだけでも海が凄まじいスピードで変化している、すなわち海の壁が壊れつつあることを実感します。

非常に長い年月をかけて形成された<海の壁>の特性が、ここ数十年で破壊されてしまった場合の影響は想像がつきません。当然これらは私たちの生活にも影響を及ぼすはずです。

変わりつつある海の環境を前に私たちはどうアプローチしていくか、海の特性はそうした側面も教えてくれている気がします。

<みのり/サカナトライター>