ところで、党大会前にSPD議員の数名が発表した「マニフェスト」(6頁)が党内に動揺を引き起こしたことはこのコラム欄でも報告済みだ。署名者たちは前回選挙での歴史的敗北を指摘し、党の刷新を求める一方、連邦政府の現在の軍備増強政策からの離脱と「ロシアとの協力」を求めていた。メルツ首相の軍備力強化路線に対する批判だ。同時に、連立政権下でCDU/CSUの言いなりになっている社民党指導部への不満の表れともいえる

「マニフェスト」ではまた、「国防予算を国内総生産(GDP)の3.5%または5%という固定的な年次増額にとどめることには、安全保障政策上の正当性はない。軍備費を増大し続けるのではなく、貧困削減、気候変動対策、そして私たちが依存する天然資源の破壊防止への投資に、より多くの財源を緊急に投入する必要がある」と記述されている。

ちなみに、共同党首に選出されたバス労働相は「社民党は本来の労働者の利益を守る政党に戻るべきだ」と主張し、参加者から拍手を受けていた。クリングバイル党首は「社民党が再び国民政党になるために、時代の要請を受けて新しい政党として生まれ変わらなければならない」と訴えていた。

SPDはCDU/CSUと共に戦後のドイツの政界を主導してきた2大政党だが、社民党のプロフィールはここにきて曖昧となってきた。SPDは「労働者の政党」が看板だったが、国民の大多数は低所得層の労働者意識などはない。社民党は現在、労働者層に代わる支持基盤を見出すことができないで苦労している。外交問題や国防問題でもロシアのウクライナ侵攻で「平和、平和」と唱えていても問題の解決ができないことは明らかになった。

また、移民問題でもしかりだ。無制限に移民・難民を受けいれることはできない。どうしても強制送還や難民家族の受け入れ拒否も必要となってくる。それに対し、社民党は明確な移民・難民政策を提示できないでいる。

そして党大会最終日(29日)、SPDは野党第1党の極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD_)の政党禁止を全国的に申請することで一致した。