こうした状況のもと、語学力のある外国人スタッフを積極採用し、日本語力の有無を問わないという方向に舵を切るホテルが増えている。実際、都内の外資系ホテル求人には「英語ビジネスレベル」「日本語日常会話レベル未満でも可」と明記されているケースもあるのだ。

地方ホテルとの決定的な違い

筆者は東京より地方へ旅行に行くことが多いのだが、地方都市の旅館や中堅ホテルでは、依然として日本人スタッフが中心で、接客も日本語が主軸であると感じる。

観光庁の宿泊旅行統計によれば、地方ホテルにおける外国人宿泊者の比率は東京の約1/3〜1/5程度にとどまる。当然ながら、インバウンド対応は補助的であり、国内旅行客を主眼としたホスピタリティが維持されている。

この差は、単なる立地の違いではない。外資系ホテルが「グローバル市場」を見据え、インバウンド向けに最適化されていく一方で、地方ホテルは「国内需要の受け皿」としての機能を持ち続けている。つまり、都市部と地方で、サービス設計の“ターゲット”が分岐しているのだ。

日本人にとっての「居場所」の再定義

誤解してはならないのは、外国人スタッフの採用そのものが問題ということではない。むしろ、人手不足を補い、インバウンド対応を強化する現実的な手段として必要不可欠な存在である。

だが、同時にこうした変化は、「日本人宿泊客にとっての使い勝手」や「安心感」の喪失につながる懸念もある。

たとえば、言語が通じないことでチェックイン時の細かな要望が伝わらなかったり、トラブル時に誤解が生じたりする可能性がある。国交省の調査によると、外国人スタッフによる日本語接客への不満は一定数あり、対応改善を求める声も多い。今後は、「外国人スタッフの日本語研修」や「顧客属性に応じた人員配置」など、バランスの取れた運用が求められる。

ホテルという空間は、単に宿泊する場ではなく、その国の文化やもてなしの象徴である。その場において「日本語が通じにくい」「日本人向けの配慮が薄い」と感じる日本人宿泊客が増えることがあるなら、それはサービス設計における何かが置き去りになっているということかもしれない。