実際、未来の量子インターネットでは、この「もつれバンク」のような仕組みを使って、数多くの利用者が効率的に通信できる環境が整うことも夢ではないかもしれません。

ただし、この「もつれのリレー」のアイデアにも限界があります。

本研究で示された通り、多くのペアに渡そうとすると、一回あたりに渡せるもつれの量は徐々に小さくなってしまいます。

量子もつれが弱くなりすぎると、それを用いた量子テレポーテーションや量子暗号などの実用的な技術の性能が大きく低下してしまう可能性があるからです。

このため、実際に量子通信や量子暗号を実用化する際には、もつれを分配するペアの数と、それぞれに分け与えるもつれの量を最適に調整する必要があります。

つまり、「どのくらい薄めたもつれまでが実用に耐えるか?」という重要な問いに、今後のさらなる研究が必要になってくるでしょう。

本研究の研究チームも、今回の理論モデルによって量子もつれという貴重な資源をこれまでより効率的に活用できる道が開け、量子技術の発展に大きく寄与する可能性があると期待しています。

また、量子もつれを資源として扱うという考え方は、本研究以外にも近年多様な方向から模索されています。

その一例として「エンタングルメント・バッテリー(もつれの電池)」という別の興味深い理論研究があります。

これは、一度使用すると減少すると考えられていた量子もつれを一時的に保存し、後から再び完全に引き出すことが可能であることを示した研究です。

しかし、どちらも量子もつれをまるで電気や水などの日常的資源のように管理・運用しようという共通した思想を示しています。

ただし、本当に実用化するためには、どのような具体的な方法で粒子を操作し、どのくらいの量のもつれが最低限必要になるのかなど、まだ検証すべき課題が数多く残されています。

それでもこうした研究の積み重ねが、今後さらに進展することによって、量子もつれの柔軟な活用法が生まれ、新しい量子情報技術が現実化していくことも期待されます。