つまり、量子もつれは量子情報技術においてなくてはならない「資源」なのです。
しかし、この量子もつれという資源は生成するのが簡単ではありません。
一般的には、まず一つの場所で粒子同士を絡ませる特殊な操作を行ってもつれを作り出し、その後、その粒子を離れた二地点に届ける必要があります。
いわば一回の作業で使えるのは一組の利用者だけ、という不便さがありました。
これはちょうど、一度組んだ「糸」はその二人以外の誰とも再び結び直せない、というイメージに近いものです。
こうした現実の難しさがある中で、量子技術の利用が拡大するにつれて、貴重な量子もつれの資源をもっと効率よく、多くの利用者で共有できないかという問題が浮上してきました。
そこで研究者たちは次のような疑問を抱きました。
「すでに作られた一組のもつれを使って、複数のペアに順番にもつれを『分けて』いくことはできないだろうか?」
例えば、量子通信をしたいCさんとDさんがいて、彼らは今すぐにもつれを共有したいけれど自分たちだけではもつれを作り出せない状況を考えてみましょう。
ところが、少し離れた場所にいる別のペア(AさんとBさん)は既にもつれた状態を持っていて、これをうまく利用できるなら、わざわざ新しくもつれを作り直さなくても済むかもしれません。
もしCさんがAさんの粒子に接触し、DさんがBさんの粒子に接触することで、A–B間のもつれを活用しながら間接的にC–D間にもつれを作り出すことができたら、効率的だとは思いませんか?
実はこうしたアイデアは一見簡単そうですが、量子力学の理論的には意外と複雑な問題です。
なぜなら、一度あるペア(ここではC–Dペア)がもつれを受け取ってしまうと、元のA–Bペアが持つもつれは必ず一部失われてしまうからです。
また、もつれを渡す操作の過程では、AさんとCさんの粒子間や、BさんとDさんの粒子間にも新しいもつれ関係ができてしまうことがあります。