黒坂岳央です。

人は世界をあるがままではなく、見たいように見ている。だが、その“見え方”が現実と食い違っていることに自分で気づける人は少ない。こうしたズレを心理学では「認知の歪み」と呼ぶ。

大小の差はあれど、この歪みは誰にでも存在する。そして問題は強すぎる歪みが生じることで、自覚がないまま人生を悪く左右されてしまうことである。

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「見え方」が狂っていた過去

筆者自身も若い頃、非常に強い認知の歪みを抱えて生きていた。

「上司に注意された=自分のことを嫌い」 「自分の人生は呪われていて、何をやっても悪いことが起こり続ける」

といった極端な白黒思考や、過度な自己否定が常態化していた。

根本的にコンプレックスや歪みが解消されたきっかけは妻である。彼女からロジカルでストレートな指摘をもらったことで、自分の思考がいかに偏っていたかを思い知らされた。「認知の歪み」の存在を理解したのもこのタイミングであった。

また、会社員をやめて独立、自分の行動が100%リスクもリターンも背負う世界に入ることになった。PDCAを回し続けて失敗をフィードバックとして受け入れる訓練を続けるうちに、認知の歪みは少しずつ修正されていったという感覚がある。

自分の体験を経て感じることは、「認知の歪みは自力で治すのが極めて難しい」という点である。一般的には家族や友達、上司からのフィードバックで認知の歪みを解消していくことが多いだろうが、筆者は親しい友人を数多く持っているわけではなかった。そのため、自分が仮に独身だったなら他者からの指摘を得られず、ひどく歪んだまま中年に突入していた可能性が高い。

外部からのフィードバックを受け取れる環境に身を置き、耳の痛い指摘をしてくれる相手を持つことは極めて重要なのだ。

歪んだ世界から抜け出せない理由

認知の歪みが厄介なのは、それが強化されるほど“本人には心地よく”なってしまうことである。