日本の“課題”を“価値”に変える場へ

「日本は課題先進国。でも逆に言えば、解決すべき課題も豊富です。高齢化、ジェンダーギャップ、低生産性──世界がこれから直面する課題に、日本は先に向き合っているとも言えます」

 田中氏は、悲観ではなく楽観で世界を捉えるべきだと語る。日本の当たり前を“輸出”するようなグローバルビジネスのヒントは、実は身近なところに眠っているかもしれない。

「アイデアがない、資金がない、経験がない──できない理由ややらない理由はいくらでも挙げられます。でもそれを乗り越えようとするエネルギーこそが、起業の原動力。だからこそ、IVSシードでは“どうすればできるか”という視点でセッションを作っています」

出会いが生むイノベーションの連鎖

 IVSシードが生み出すのは、単なる学びの場ではない。研究者とビジネスパーソンの偶然のマッチング、社会課題への共感によるチーム結成、そして投資家との出会い──思いがけない化学反応が、ここでは起こる。

「起業と言うと、日本では“リスクを取る”という表現が先行しがちですが、アメリカで起業している人が多い理由は、合理的に考えて起業したほうが良いと考えているからです。起業して成功すれば大きなリターンが得られる、起業中も資金調達できれば、個人の借金もなく給料も取れる、失敗しても転職先は見つかるという安心感があるため、彼らはそれをリスクだとは思っていない。むしろ合理的な選択なんです」

 起業が特別な行為ではなくなる社会へ──田中氏はその第一歩として、IVSを活用してほしいと語る。

「準備された偶然」に飛び込め

 最後に、田中氏はこうメッセージを送る。

「IVSは、とにかく規模が大きく、セッションやサイドイベントも膨大です。初めての方には、ぜひ事前準備をおすすめします。どのセッションに参加するか、誰に会いたいか。それを考えるだけで、当日の出会いや学びが何倍にも広がります」

 起業家の道は時に孤独だ。しかし、IVSシードは、その孤独に寄り添い、志を共にする仲間や、未来を拓くパートナーとの出会いを提供するために存在する。“準備された偶然”に飛び込み、“できない理由”を“できる理由”に変えるエネルギーを、この地で手にしてほしい。京都で芽吹く新たな「人の力」が、きっと日本の「失われた30年」を終わらせ、明るい未来を切り拓く原動力となるだろう。

(構成=UNICORN JOURNAL編集部)