メルケル元首相は2008年、イスラエル議会(クネセット)で演説し、「イスラエルの存在と安全はドイツの国是(Staatsrason)だ。ホロコーストの教訓はイスラエルの安全を保障することを意味する」と語っている。メルケル氏の‘国是‘発言がその後、ドイツの政治家の間で定着していった。

一方、ドイツと共にイスラエルに対して無条件支持を表明してきたオーストリアは今回、「共同声明」に署名している(オーストリアはアドルフ・ヒトラーの出身国であり、ナチス政権の戦争犯罪に加担してきた国だ)。

ベアテ・マインル=ライジンガー外相は共同声明に署名したことで、「オーストリアの中東政策におけるパラダイムシフトではないか」という指摘に対し、「声明の内容は私が何ヶ月も言い続けてきたことだ。オーストリアはイスラエルを支持するが、同時に、ガザの人道状況に目をつぶっているわけではない。イスラエルには自衛の権利があるが、殺害は止めなければならない」と説明している。そして「共同声明はハマスを支援する結果となる」という批判に対しては、「不合理だ。ハマスはテロ組織だ」と一蹴した。

ちなみに、マインル=ライジンガー外相はドイツのヨハン・ワーデフール外相とイスラエルのギデオン・ザール外相をウィーンに招き、「ウィーン三国会談」を発足させるなど、ウィーン、ベルリン、エルサレム間の協議の枠組みが確立されたばかりだ。

なお、イスラエルの駐オーストリア大使、デイヴィッド・ロート氏は日刊紙「プレッセ」(23日)の中で、「このような微妙な時期にこの声明を発表しても、停戦に近づくことはない。むしろ、ハマスのテロリストたちを勇気づけ、強硬にさせるだけだ」と反論している。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年7月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。