「共同声明」発表の直接の契機は、、イスラエル軍が20日、支援物資を受け取るため集まった住民に発砲し、93人が死亡するという事態が生じたことだ。ガザでは、配給所付近で食糧を求める多くのパレスチナ人、少年や少女たちが殺害される例が多発している。国連によると、5月下旬以降800人近くが犠牲となったという。
「共同声明」に署名した国リストをみると、ドイツが署名に参加していないことに気が付く。一方、ドイツと共にイスラエルへの無条件支持を表明してきたオーストリアは署名国となっているのだ。
メルツ首相は22日、「わが国は欧州理事会で既に同様の立場を取っている」と政府の行動を擁護した。ただし、同首相は5月26日、ベルリンで開催されたドイツ公共放送「西部ドイツ放送」(WDR)主催の「ヨーロッパフォーラム」で、イスラエルのガザでの行動について、「ガザの民間人の苦しみはもはやハマスのテロとの戦いによって正当化されることはない」と強調し「イスラエル政府は最良の友人でさえも受け入れることができなくなるようなことをしてはならない」と、イスラエルのガザ戦闘を厳しく批判した。一方、メルツ首相の連立パートナー、社会民主党(SPD)のマティアス・ミールシュ院内総務は、メルツ首相の姿勢に不満を表明し、「28カ国の共同声明の明確なシグナルは正しく、ドイツも本来、共有すべきだ」と述べている。メルツ連立政権でイスラエル政策で相違があることが分かる。
ドイツとイスラエル両国は今年、外交関係を樹立して60周年を迎えた。ドイツでは過去、個々の政治家がイスラエルを批判することがあっても、政府レベル、首相が公の場でイスラエル政府を非難することはなかった。ドイツではイスラエルに対して無条件で支援するという国家理念(Staatsrason)があって、それがドイツの国是となってきた。その背景には、ドイツ・ナチス軍が第2次世界大戦中、600万人以上のユダヤ人を大量殺害した戦争犯罪に対して、その償いという意味もあって戦後、経済的、軍事的、外交的に一貫としてイスラエルを支援、援助してきた経緯がある。