それ以来、変容的利用にはフェアユースが認められやすい。多くの新技術・新サービスで変容的利用が認められた(詳細は「日本のネット敗戦、真犯人は?」の図表2参照)。
アンソロピックはAIの訓練のために数百万冊のデジタル書籍を取得した。その多くは紙の書籍を購入してスキャンしたものであるが、かなりの数は「海賊図書館」からダウンロードされたものだった。これを知った作家たちが著作権侵害で提訴した。アンスロピックはフェアユースを主張した。
オールサップ判事は以下の三つの行為についてフェアユースの4要素を適用して検討した。
訓練:判事は「著作物をLLM訓練に用いて新たな文章を生成させることは、本質的に変容的である」としてフェアユースと認めた。コピーの範囲も訓練には必要だったとし、市場に影響を与えていないとした。 正規購入書籍のデジタル化:保存スペースの節約と検索性のためのデジタル変換は変容的であり、電子書籍市場を代替する意図はないとしてフェアユースと判断。
海賊版書籍のダウンロード:この点については著者側の主張を認め、「すべての要素がフェアユースに反する」とし、海賊版の永久保存について損害賠償と侵害の審理を行う方針を示した。
カッドレイ 対 メタ事件
アンソロピック判決2日後の6月25日、同じカリフォルニア北連邦地裁のチャブリア判事も、カッドレイ 対 メタ事件でメタのフェアユースを認める判決を下した。ただし、理由はオールサップ判事とは異なった。
13名の作家がメタを著作権侵害で訴えた。アンソロピックと同様、メタがコピー書籍のライブラリを使って生成AIを訓練したと主張した。「シャドウライブラリ」から書籍を取得したとされるメタはフェアユースを主張した。
チャブリア判事は市場希釈に関する実質的証拠が欠けていたため、コピー行為および訓練行為はフェアユースと判断した。メタの使用目的は「多様なテキスト生成・機能を持つ革新的ツールであるLLMの訓練」であり、原著作の目的(娯楽や教育のために読むこと)とは異なるとされた(以下、「メタ判決」)。