このタンパク質は細胞内のイオンバランスを保つ生命活動に不可欠な存在ですが、毒はこのポンプ機能を阻害することで致死的な効果をもたらします。
しかし一部の動物(ヤマカガシというヘビ)は、このポンプ機能を構成する遺伝子(ATP1A)に特定の“耐性変異”を持つことで、毒の作用を回避していることが知られていました。
カンムリワシにも同様の進化が起きている可能性があると考えられたのです。
ヤマカガシと同じ毒耐性を持っていた!
チームは、石垣島と西表島で事故死したカンムリワシの筋肉や血液からDNAを抽出し、ATP1A遺伝子の塩基配列を詳細に解析しました。
また、比較対象としてインドネシアの近縁亜種や、他の猛禽類9種のデータも分析しました。
その結果、驚くべき事実が明らかになりました。
カンムリワシはATP1A1遺伝子において「Q111E」というアミノ酸の置換を持っており、強心配糖体を分泌するヒキガエル類やホタルを捕食し、毒への耐性を持つことが知られているヤマカガシというヘビと同一の配列であることが判明したのです。
東アジアに広く分布するカンムリワシの亜種は、すべての生息地で強心配糖体(毒)を分泌する生物が生息しており、さらに台湾の亜種はこれらのカエルの 1種を食べていることもわかっています。
これらのことから、カンムリワシは、強心配糖体を分泌する動物を食べることへの適応として、種として遺伝的に強心配糖体への耐性を持っていて、それぞれの亜種もしくは個体群として隔離された後にもその耐性を維持し続けている可能性が高いことが明らかになりました。

一方で他の猛禽類では、私たちヒトのように毒耐性を持たない種と同様のアミノ酸配列を持っていました。
オオヒキガエルの毒に対する耐性は、カンムリワシもしくはカンムリワシにごく近縁の種に限られた進化の産物である可能性が示唆されたのです。