例えば、HO集団は北海道から本州北部まで広い範囲に分布して遺伝的多様性も豊富ですが、一方のsKK集団は南九州と関東南部という飛び地的な分布をしており、その間の中部地方などには存在しないという特殊な状況にあります。

こうした各集団ごとの特徴を無視してしまうと、大切な遺伝資源や多様性を失ってしまう危険性があります。

今回の研究成果は、今後の日本の生物多様性の研究において非常に重要な基盤を提供します。

これまで曖昧だったサワガニの系統分類が明確になり、日本列島の地史との関連性も初めて科学的に裏付けられました。

とはいえ、この研究で新たに見つかった謎もあります。

研究チームは今後、それぞれの集団内でさらなる細かな遺伝的差異があるかどうか、あるいは特に謎めいた青色型の体色を決めている具体的な遺伝子の正体や環境要因との関係について、より深く調査していく予定です。

この研究を始めるきっかけは、研究を主導した國島大河氏が「場所によって体色がこんなに違うのはなぜだろう?という素朴な疑問から始まった」というシンプルな動機でした。

しかし実際に日本全国を巡ってサワガニを探すうちに、新たな謎が次々と生まれ、「サワガニを求めて東北から九州まで全国行脚していくうちに新たな謎も生まれ、困ったことに彼らはいまだに我々の頭を悩ませてくれています」と國島氏は振り返ります。

青いサワガニがなぜ独立して二度も誕生したのか、また、九州と関東という離れた地域で同じ遺伝的集団がなぜ見られるのか――その謎は、さらに深まったのです。

研究チームは「全ての謎が解ける日を夢見て、今後も生態や生理、分子などさまざまな視点から、身近な水生生物である『サワガニ』の魅力を深掘りしていきたい」と意欲を燃やしています。

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参考文献

ゲノムから探るサワガニの複雑な分布と進化史 “色”だけでは見抜けない集団構造を明らかに
https://www.setsunan.ac.jp/news/detail/7633